コントラバスの入ったピアノ五重奏曲について

01/03/22
Rev.04/04/10
Rev.04/06/14

津留崎護

コントラバスの入ったピアノ五重奏曲ではシューベルトの「ます」が飛びきり有名ですがそれ以外にも、
何曲かあります。せっかくコントラバスの方とお知り合いになれたのでしたら、続けて何曲か
はしごをされてみてはいかがでしょうか。といっても余り数がなくて私の知っているのは次の4曲です。

1.Hummel,Johann N. Piano Quintet es-moll Op.87
2.Schubert Piano Quintet A-dur Op.114 "Trout"
3.Farrenc, Louise  Piano Quintet No1, Op30
4.Farrenc,Louise Piano Quintet No2, Op31
5.Goetz, Hermann Piano Quintet Op.16
 (New)

年代順にご紹介します。

1.Johann N.Hummel Piano Quintet es-moll Op.87

1778年にプレスブルクで生まれたフンメルはモーツァルト、アルブレヒトバーガー、サリエリに師事し、当時の最も重要なピアニストの一人でした。ハイドンの後継者としてエステルハージー宮のカペルマイスターに就任し、その後シュツットガルトのカペルマイスター、ワイマールのカペルマイスターを歴任に、1837年にワイマールでなくなっております。当時はもっとの重要な音楽家とされておりましたが、その後徐々に忘れ去られてしまいました。フンメルの音楽は当時の宮廷サロン用の作品ですが、ロマン派の到来とともに地位を失ってゆきました。しかし現在ではフンメルの器楽形式はモーツアルトとショパンを橋渡しするものとしての重要性が広く認識されるようになっております。

フンメルのピアノ五重奏曲Op87はピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのための五重奏曲としては最初の作品であることは注目に値します。1802年に作曲されていますがこれはシューベルトのピアノ五重奏曲よりも20年も前のことです。楽譜はウィーンのSteiner und Compによって1822年に出版されました。このためにフンメルがシューベルトの後にこの作品を作曲したと誤解される原因の一つになりました。事実は逆であり、アマチュアチェリストであるパウムガルトナー(S.Paumgartner)がフンメルの作品をシューベルトに紹介してピアノ五重奏を書くように薦めています。

この五重奏曲は緩徐楽章を欠いている点で注目されます。フィナーレの序奏のような29小節のラルゴが置かれています。また調号上は変ホ長調ですが実際には変ホ短調で始まり、変ホ短調で終わります。

演奏した印象:
この曲を面白くないという人もおり、いや素晴らしい曲だという人もおりました。このような前評判もありぜひ真面目にやってみようということになりました。弦のパートは真っ白であんまり面白そうな感じがしません。コントラバスなどは練習のしようがないとぼやいておりました。

  第1楽章
少し遅めにやってみよういう提案は害がありました。曲頭の動機がはっきり
Allegro e risolute assaiに聞こえることがとても大事なことでした。二分音符=120の指定がピアノ譜にはありますが、かなり早いテンポで演奏することが重要です。すると華麗なピアノの間を縫って弦楽器が見事に浮かび上がってきます。ショパンを予見する響きが随所に現れます。シューベルトとはまったく別の発想です。

  第2楽章
とても面白い楽章です。冒頭のテーマとヴァイオリンが弾くワルツのような部分が良く対比されており魅力的な作品です。この楽章だけ独立させても面白いと思います。

第3楽章
ピアノのロマンティックで華麗なパッセージを主体とした序奏に続いて、フィナーレ(
Allegro agitato)が始まります。この楽章ではヴィオラやチェロにもよいソロが回ってきます。

練習が終わったあとみんな満足してしまい。またやろうということになってしまいました。議論をするまでもなくこの作品はよい作品です。

ただ、シューベルトと違って良いピアニストが必須です。

2004/6/14 補足)

 

以下に各楽章(ラルゴを含む)を上げておきます。

Hummel Piano Quintet es-moll Op.87 第1楽章

Hummel Piano Quintet es-moll Op.87 第2楽章

Hummel Piano Quintet es-moll Op.87 ラルゴ

 

Hummel Piano Quintet es-moll Op.87 第3楽章

 

2.Schubert Piano Quintet A-dur Op.114 "Trout"

余りにも有名な作品ですので、詳しい説明は省かせていただきます。
なんど演奏しても、いつも幸せな気分にしてくれる名曲です。

3.Louise Farrenc Piano Quintet No1, Op30

パリ生まれのファラン(1804-1875)は幼いときから音楽に優れた才能を示しました。主にピアノ作品を作曲しておりましたが1839年に初めて書いた室内楽作品がここで紹介するピアノ五重奏です。一年後には同じ編成によるピアノ五重奏第2番を作曲しております。その後20年間にわたり多くの室内楽を作曲しており、4曲のピアノ三重奏、2曲のヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、弦楽四重奏、六重奏曲、九重奏曲などがあります。そのほかに3曲の交響曲、3曲の序曲があります。

部分的に演奏してみましたが、楽しくしゃれた曲でメロディも美しくこれはお薦めできるなという感じでした。ピアニストのコメントですが、譜読みが楽なのが先ず良いと言っておりました。技術的にはやさしい曲です。弦楽器についても譜読みは楽ですし演奏も楽しめます。2楽章にチェロの美しいソロがあります。コントラバスでサポートされている分だけ高音が多いです。

アマチュアでも十分楽しめる曲です。

Farrenc Piano Quintet No1, Op30 1楽章

Farrenc Piano Quintet No1, Op30 2楽章

Farrenc Piano Quintet No1, Op30 3楽章

Farrenc Piano Quintet No1, Op30 4楽章

4.Louise Farrenc Piano Quintet No2, Op31

ソステヌートの重々しい序奏で始まる第2番は第1番に比べて、弦楽器がさらに独立して使用されています。弦楽器だけで演奏されるパートがあります。また各声部のポリフォニックな取扱いという点についても1番とは趣を異にしております。ピアノパートについては、1番にくらべ細かい音符が多く華やかになっていますが、技巧的には大変弾きやすいという領域に収まっています。難易度については全てのパートについて1番同様に「易しい」といえそうです。どの曲でも同じですが弦楽器には美しい音色を求めています。

 Farrenc Piano Quintet No.2 Op.31 1楽章

 

Farrenc Piano Quintet No.2 Op.31 2楽章

 

Farrenc Piano Quintet No.2 Op.31 3楽章

 

Farrenc Piano Quintet No.2 Op.31 4楽章

5.Goetz, Hermann Piano Quintet Op.16

ゲッツは1840年ケーニッヒスベルクで生まれ1876年にチューリッヒで36歳の若さで亡くなったロマン派の作曲家です。コントラバス入りのピアノ五重奏曲としては重要なレパートリーだと思われますのでご紹介いたします。

コントラバスの入った作品はサロン風の作品という趣きですが。このゲーツの作品はロマンティックで且つシリアスです。2回演奏する機会がありましたが、全ての楽器がかなり弾き応えがあり満足できます。
シューベルトのピアノ五重奏曲が1回で通るグループでも何回かはストップしなければならない程度の難易度です。

以下に各楽章から数例を挙げてご説明します。

第1楽章ー序奏



チェロのG音から、暗い闇のなかを探るように曲ははじまり、徐々に熱を帯びてクライマックスをむかえ静かにpで終始します。このような序奏が17小節続きますがアンサンブルはなかなか難しいものがあります。

第1楽章ー主部

 

主部はアレグロ・コン・フオーコです。指定のテンポはかなり速く、コントラバスの入ったピアノ五重奏という響きがつかめてないこともあり、チェロ+コントラバスで暴れられると、ヴァイオリンを弾いた私としてはヴィオラを味方につけて格闘しているような感じでした。本当はもっと違った響きがあるのかもしれないと思います。もう少し詰めてみたくなります。

第2楽章

 

第2楽章はロマンティックな歌です。ヴァイオリン、ピアノはもちろんのこと、ヴィオラにも、チェロにも、そしてコントラバスにも魅力のあるメロディーが回ってきます。各声部は割合複雑に絡み合いますし、リズム的な乱れもあり、うっとりと歌に専念していると危ない目にあいそうです。

第3楽章

強い律動のあと、タイのかかった伸びやかなメロディが展開しますがクアジ・メヌエットの部分も最後はフォルテッシで強く締めくくられます。

トリオはVn,Va,Cbはピチカートを刻みVcが素朴なメロディを歌い、それに続きピアノがオクターブの単旋律を同じように歌います。したがって主部とトリオの対比はとても激しいはず。もっとのんびり演奏すべきだったと悔やんでいます。

 第4楽章ー序

 

ややこしい序です。ゲッツはリズム的に変化があってしかもポリフォニックな乱れもある楽譜がお好きなようです。初めての人はとまどいます。

4楽章ーテーマ

 

ヴァイオリン譜です。序が終わったあと不規則なピアノによるテーマに続いてヴァイオリンがテーマを歌うところですが、弓使いを考えるとイヤーな予感がする譜づらです。このテーマをつかったフガートまで出てきます。指定のようにアレグロ・ヴィヴァーチェで軽快に演奏するのは大変です。
ということで全曲を演奏しますと「疲れたー」とみんなが叫ぶ曲です。


この曲をどのように解釈し演奏するかはかなり興味のある課題といえます。誰かが名演を行い演奏会で広く取上げられる可能性をもった曲だと思います。ぜひ挑戦をしてみてください。