Mozartの弦楽四重奏のリピート記号について

結論

2001/2/23
津留崎護

 

まえがき

古典的なソナタ形式の提示部の終わりには反復記号がついております。これはMozartの弦楽四重奏では繰り返すのが普通です。曲の最後に反復が書かれている曲も沢山あります。これは繰り返さないのが普通のようです。

提示部の反復はテーマを徹底させる意味でも、テーマを特別に重要視するソナタ形式では当然のことです。後代に表れる繰り返さない形式は繰り返さなくとも良いような注意が払われています。

曲尾の反復記号は時間調整用だと私は思っております。つまりもう少し演奏時間が欲しい場合には繰り返しても良いですよという実用的な意味だと思います。したがって繰り返さなくても楽曲としては完成しています。逆に曲尾に反復記号のない作品は、絶対に繰り返すなという作曲家の意思が込められていると思います。

では曲の途中に入っているリピートは一体何物なのでしょうか。この点に焦点を絞って見ました。

準備

Mozartの全ての弦楽四重奏の1楽章を列記してみると回答が見えてくるようです。

1)提示部、曲尾での反復型:K156/157/158/159/168/169/172/387/428/464/589の11曲で
作曲年についても1772−1790年という具合に全ての期間に使用されています。

2)提示部、中間での反復型:K173/421/458/465/499/590の6曲
作曲年は1773−1790年です。

3)反復をしない型::K155/171の2曲
作曲年は1772−1773年と初期の作品に限られています。

4)提示部のみの反復:K575の1曲
作曲年は1790年と後期の作品に表れています。曲尾に反復記号を置かないというのは、最後に点を二つ書くかどうかなのですが、Mozartが作品の芸術的価値を意識している良い証拠だと思います。

作品番号 作曲年 提示部の反復 中間での反復 曲尾での反復 備考
K155 1772  
K156 1772  
K157 1772  
K158 1772  
K159 1772  
K160 1772  
K168 1773  
K169 1773  
K170 1773       変奏曲なので除外
K171 1773 Adagio/Allegro/Adagioの形式
K172 1773  
K173 1773  
K387 1782 「春」
K421 1783  
K428 1783  
K458 1784 「狩」
K464 1785  
K465 1785 「不協和音」
K499 1786 「ホフマイスター」
K575 1789  
K589 1790  
K590 1790  

検討

提示部、中間での反復型:K173/421/458/465/499/590の6曲について少し検討をしてみます。

作品番号 提示部 展開部 再現部 コーダ 反復記号の場所
K173 1-45 46-65 66-118 119-136(18) 45/118
K421 1-41 42-69 70-112 112b-117(6) 41/112b
K458(狩) 1-90 91-163 164-230 231-279(49) 91/230
K465 23-106 107-154 155-226 227-246(20) 106/226
K499 1-97 98-141 142-242 243-266(24) 97-243
K590 1-74 75-111 112-186 187-198(12) 74/186

注記)K465の1-22は序奏です。( )は小節数です。

結論

表をご覧になった方は、「なあんだ。」と思われるでしょう。そうです。2回目に表れる反復記号は再現部の最後におかれ、ここからがコーダですよと指示してくれているのです。
演奏上大事なことは、ここからコーダだぞと心してかかることでしょう。

49小節ものコーダを持つ「狩」などはこのようなことが分っていないと、自分が何を弾いているのか分らなくなります。反復記号のあとは効果的な終結を目指して演奏しなければならないのです。

反復の可否については、曲尾に置かれた反復記号と同じ意味をもっており時間調性用だと言えます。
「時間調整をするんだったらここから繰り返してください。コーダを終わったところから繰り返すのは止めてください。」と当時の音楽家にMozartが言っているような気がします。

以上