目次に

Mozart String Quartet  K173

 この曲をもって初期の弦楽四重奏は完了します。ナポリ四重奏に始まったモーツァルトの四重奏曲が1−2年でこれほどの成長を遂げたことには驚嘆しました。K173がどのような動機で書かれたのかを知りたいと思いましたが分りませんでした。しかしこれほど深刻な内容を弦楽四重奏で表現しようとしたことがモーツァルトの弦楽四重奏の書法を飛躍的にのばしたのではないかと思います。

弦楽四重奏の特長である求心性をこの作品は明確に備えています。どのパートも真剣な練習を要求します。そして演奏には常に緊張感が求められます。

ファーストヴァイオリン

1楽章 (Allegro moderato) 

  事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   Peter版、Baerenreiter版ではAllegro,ma molto moderatoです。どのようなテンポをとるのか迷ってしまいます。アンサンブル上は難しくないのですが、上手く演奏するのは至難です。速いテンポで飛ばしたほうが纏まりが良いのでしょうが、「molto moderato」としっかりと釘を刺されています。出来るだけ遅いアレグロで纏められれば最高です。
張りつめた緊張感が要求されます。
 
  難しい 全員のユニゾンで演奏される16−18小節の動機(フレーズ)がf、pにかかわらず演奏できるかが決めてです。17小節の第1拍目を良く見てください。32分音符です。これは絶対に16分音符ではありません。またトリラーの数も32分音符に対応する数であることも明らかです。このトリラーを正確に弾かないでテンポをあげるた演奏は偽物と言われても仕方がないと思います。練習しかありません。 k173-1-16


k173-1-16

2楽章 (Andantino grazioso)

  事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   合わせると言う意味では問題ないと思います。2小節の2拍目のスタカートが完全に弾けるように弓使いを調整する必要があります。つい逆弓になったり、スタカートの弾けない場所に弓がいかないように考えておかないと失敗します。Vn1,Vn2,Vaがピタリと合うだけで随分満足感が得られます。 K173-2-2
  落ちる 最後に分らなくなります。90小節からfのパッセージが2小節続きます。そして次から倍テンポになったりするのです。8分音符を一拍としてしっかり数えてください。 K173-2-90


K173-2-2


K173-2-90

3楽章 Menuetto

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   素晴らしいメヌエットです。しかししっかりさらわないと綺麗に弾けないメヌエットです。初期の弦楽四重奏という感じではありません。  


4楽章 (Allegro moderato)

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   「アンサンブル上の問題はありません」と申し上げたら怒られそうですが、このフーガは完璧です。全ての入りはごく自然ですし見とおしが大変よいと思います。弾いていて何の違和感もありません。完璧ゆえの弾きやすさでしょう。
Mozartの力量に圧倒されます。テーマについてはチェロのところでふれます。最後4小節は純正調を響かせられる弦楽四重奏の幸せを感じてください。

作品として落ちやすいところはありませんので譜例はあげません。

 


セカンドヴァイオリン

1楽章 (Allegro moderato) 

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   セカンドヴァイオリンの扱いが進歩しています。書法が弦楽四重奏特有のものに変化しております。アンサンブル上難しいところはありません。落ちるところもないのです。ファーストヴァイオリンの項で述べたフレーズをしっかり練習する必要があります。  

 

2楽章 (Andantino grazioso)

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   8分音符を1拍として休符や4分音符を数える必要があります。落ちてもすぐ入れるところが大半ですが、うっかりするとミスをします。  
  手ごわい 64−67小節はVn1,Vn2の2声部です。スラー+スタカートで演奏するのはとても難しいです。しかも低音がないので目立ちます。 K173-2-64


K173-2-64

3楽章 Menuetto

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   特に合わせにくいところはありません。トリオはしっかり練習して技術的な面での問題を解決しておかないと、Vn1とピタリと合わせることが出来なくなります。  

 

4楽章 (Allegro moderato)

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
    良く練習することが重要です。これ以上のコメントはありません。チェロの項を参照してください。  

ヴィオラ

1楽章 (Allegro moderato) 

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   アンサンブルは難しくありませんが、Vn1の項を参照してください。多くの練習が必要です。  


2楽章 (Andantino grazioso)

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   Vn2と同じコメントです。つまり8分音符を1拍として休符や4分音符を数える必要があります。  

 

3楽章 Menuetto

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   落ちるようなところはないでしょう  
  めずらしい 53小節はVcは休止でVaがバスです。重音にしているのは珍しいですね。 K173-3-53

4楽章 (Allegro moderato)

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   良く練習することが重要です。これ以上のコメントはありません。チェロの項を参照してください。  

チェロ

1楽章 (Allegro moderato) 

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   Vn1のコメントを参照してください。  

2楽章 (Andantino grazioso)

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   特にありません。  

3楽章 Menuetto

  事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   特にありません。  

4楽章 (Allegro moderato)

小節数 事故 推定原因とコメント 楽譜
全体   この楽章はフーガのテーマがしっかり把握できているかどうかが重要なキーになります。作品が自然にできているのでガイドなどは必要ないと思います。(ガイドが必要無いくらいにフーガの原則と対位法の癖を理解して頂きたいと思います。他のパートの動きが必然的だと感じられるまで弾きこむことが重要だと思います。)  
1 危ないテーマ 音符の種類が多いテーマです。2分音符、付点4分音符、4分音符、付点8分音符、8分音符、16分音符の6種類の音価の音符で構成されています。また半音進行が沢山あります。
テーマの初めは声楽的ですが後半は器楽的要素があります。このようなことがこのフーガをバラエティに富んだ物にしています。

密集型のフーガですからあらゆる場面でテーマの一節が聞こえてきます。このようなわけで落ちやすい要素はいくらでもあります。

どのようにすれば落ちないかという議論よりも対位法そのものに耳と体をならすことが重要だと思います。フーガのルールになれていますと「さあ、あなたの番ですよ」という優しい呼び声が聞こえてきます。招きに応じて入ってゆけば良いのです。

K173-4-1


K173-4-1