演奏解釈のロードマップ

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1.作品分析 2.作品の背景 3.演奏スタンス 4.発想記号を含む分析 5.並列・従属関係 6.テーマ 7.接続部   

             演奏解釈手順の全体をご説明したいと思います。(ソナタ形式を前提にして説明します。)

1.作曲学的な作品分析を行い分析表を作成する。

 この作業は作品解説などに掲載されている分析表を作る作業です。この作業はある程度の音楽的知識があればできますし、分析作業を自分でやるということ自体が楽譜を違った目で見ることになります。

 どれが第一主題であるかを知ることではなく、どこからどこまでが(私にとって)第一主題であるかを決定する作業です。スコアーを読み込むという一番重要な作業です。必ずメンバーの全員が作業してください。そしてお互いに結果を比較してください。他の文献との比較も時間があればやりましょう。

2.作品の背景を調査する

 作品に関する情報や作曲家に関する一般的な知識もメンバーで共有しておきましょう。また同一作曲家の同じ時期の作品を聴きましょう。

 作曲家の生きた時代の政治文化の状況に自信のない人は少々歴史の勉強をしてください。時代背景は大前提です。同時代に書かれた小説など読むのは面白いですよ。特にカテゴリ2のサロン音楽などを演奏する場合には時代背景に関する情報が欠けていては、まったく的外れになります。

同様に演奏慣習についても知識を集めておく必要があります。演奏慣習については私は沢山CDを聞いたり、当時の書物を調べるぐらいのことしか思い当たりません。何かよい方法をおもちの方はご連絡ください。

(情報の提供をお願いしたいのですが、18世紀の貴族のサロンでの演奏について、プログラムは存在したのでしょうか?具体的な内容についてどなたか資料を提供していただけないものでしょうか)

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3.演奏スタンスの確認

作品の中にがっちりと演奏する価値を見出すか否かによって練習への取り組みも変わってきます。合宿をして練習するのか、2−3回の練習にするのかなど、演奏者全員のスタンスの確認をしておく必要があります。

4.発想記号を含む表現の分析

作曲学的な作品分析では発想記号についてはほとんど取り上げませんが、演奏をする場合には発想記号は最も重要なポイントになります。スコアの読み込みの時点でチェックされることが多いのですが、ご自分の解釈と実際に指示されている発想記号の間に矛盾や疑問を感ずることが良くあります。このような矛盾点・疑問点について他の版やできれば校訂報告書などを参照にして、明らかなミスプリントによるものは除外してしまいます。

次に、なぜ矛盾・疑問点がある発想記号を作曲家があえて指示したのか?を考えます。これが演奏解釈の起点になります。作曲家の指示に矛盾・疑問がないという前提で再度楽譜を検討すると、別の考え方ではそれは矛盾していない、疑問の余地はないと思えることがしばしばあります。その時点で初めて作曲家の意思を理解できたと言えるでしょう。推理小説の謎解きによくにています。

ここで得られた考え方=解釈は主観的なものであり検証のしようはありません。そのような解釈は決して一通りではないでしょうからメンバーの中には異論を唱える人もいるでしょう。それで話し合ってある結論を出すわけです。この結論を演奏に反映するならば、ここはこのように演奏すべきだというアイディアがどんどん出てきます。それをスコアに書きこんで行きます。この作業が終了すれば演奏解釈がほぼ完了してたことになります。演奏解釈とは書類に纏められるものではなく楽譜上に表現されるものです。

ほとんど発想記号が書き込まれていない曲などの場合はより主観的な方法で曲の解釈を決めていかなければなりません。その場合には並列・従属関係から検討する手法が有効です

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5.分析表の各部分の並列・従属関係を把握する。

例えば第一主題―経過部1−第2主題―経過部2−第3主題ー小結尾部という具合に並んだ提示部で、全体を2つに分けるならばどこで切るのが妥当か?という問いに答える作業です。提示部全体を1つ結合して表現するほうがよい場合もあるでしょうし、2つにわけて表現したほうがよい場合もあります。いづれにしても、上記の例で6部に別れてしまう演奏をしたのでは演奏になりません。並列・従属関係の把握についてメンバーの全員が合意すれば構造的な演奏解釈は具体化され共有化されたことになります。

 

6.テーマの性格に関する議論

    テーマは基本楽想ですから慎重に検討する必要があります。フレージングを主に置いた分析を行      い、グループとして個性のある表現を決定します。この場合内声部を含めた総合的な表現であり、     決してメロディだけの問題ではありません。

        発想記号の分析のところで、テーマはすでにチェックされていますが、テーマの性格(どのように演奏      するか)についてはテーマだけを取り出して再度入念に検討してください。小さな発見により全体の     解釈が変わる場合もあります。

同時にテーマに含まれるモティーフや音型の取扱もきめて行きます。このステップまでくれば構造的な点については、メンバーの間で共通の理解が得られているので作業はスムーズに進みます。

このステップではもうメンバーの好みとセンスの問題になるのですが、実はこれが一番重要なこと です。ここでどこまで創造力を発揮できるかが演奏の質を決定します。

十分、時間と感覚を使ってください。

7.接続部の技法に関する議論

の上に書かれた各部分の並列・従属関係を聴衆に伝える唯一の手段が接続部の表現です。テーマの性格と取り扱いも決定されていますので、全体の概念としての演奏解釈は終了しています。しかしソナタ形式を構造的に演奏する場合に非常に重要な役割を担うのは接続部の演奏法です。一番大きな接続部は展開部かもしれません。テーマは作曲家が生み出したものですが、接続部は作曲家が作り上げたものという感じがあり、大変に力が入っている場合もありますし、天才のひらめきのような場合もあります。

 

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