1.構造の把握
ソナタだろうという「感」を頼りに提示部、展開部、再現部、コーダが何小節から何小節までかを適当に決めてください。これは楽曲の要点を大局的に把握する作業です。
提示部は曲の冒頭、または序奏が終了した次の小節から始まりますので普通は明瞭です。序奏に対する速度指定と提示部では違うことが多いですし間違えることはないと思います。この曲の例では私は最初の2小節を序奏としていま
序奏と提示部の入り
提示部の終わりは複重線の反復記号の入っているところと考えても良いくらいです。この例でも216小節に複重線が入っており、ここまでが提示部であることが明示されております。 複重線が無い場合にはどのようにするかというと、ソナタ形式の場合には反復を省略した代わりに、反復をほのめかせる、または反復に極めて近い展開部への入り方をする場合などがあります。これについては、実例に接したときにご説明します。
提示部の終了部では1括弧、2括弧などが出てきます。ここで小節数の数え方を整理しておきます。不完全な小節は(アウフタクトなど)は1小節とは見なさず、カウントしません。1括弧内は小節数のカウントに入れません。
展開部の入り
展開部は提示部終了の次の小節から開始して再現部の1小節まえで終了します。
再現部の開始は分りやすい場合もあり、不明瞭な場合もあります。この例では明確に主題が再現されるので間違えることはないと思います。再現部の終了は提示部の終了と同じ形をしているところを持って終了としております。ここでは547小節です。Un poco sostenuto によって明示されております。
再現部の入り
再現部以降がコーダになります。コーダの形態は非常に簡単なものから、展開部を持つものまで非常に複雑です。この例の場合には適度な長さのコーダになっております。
コーダの入り
実例の場合にはここまでの作業はすぐ終わってしまいますが作品によっては1週間程度も考えつづけないと分からない場合もあります。作曲家との知恵比べのような感じがあり分析作業のなかで最も楽しい作業です。
2.詳細の把握
次の作業は、小節単位に分割し自分の思うとおりに分析表を作る作業です。上記の作業を終了後、上記の結論を検証する意味で詳細の把握を行ないます。
提示部は第1主題部、経過部、第2主題部、結尾部を決定
展開部は構造の明確化
再現部は第1主題部、経過部、第2主題部、結尾部を決定
コーダは構造の明確化、コーダ内にある結尾部としてのコーダの決定
この作業は作品を最小単位まで分割してそれを統合する作業をします。作曲家が構成を練った後詳細の作曲に取り掛かるように、丹念な分析を行ないます。その結果を纏めたのが次の表です。非常に詳細に書きこんでありますが、この表はブラームスの六重奏曲のスコアを見ながら私がメモを取っていったものです。「呼び名」というのは分割した部分の名前です。記号の意味は、自己流ですが下記のように使用しています。
IN
序奏
T1
テーマ1(変形があるとa,b,c等で区別しています。)
T2 テーマ2(変形があるとa,b,c等で区別しています。)
P 経過句(Passage)
これも新しいパッセージ出てくれば1,2、と番号を振っています
P1 作業を進める上で迷うことが沢山ありますが、気にせずに気づいた点をしっかりメモしながら作業を進めてください。分析をしながらここはこのように弾きたいなどというアイディアがあればそれも書きこんで行きます。この作業で重要なことはできるだけ細分化することです。ここで大まかにやってしまっては、あいまいな把握しかできなくなります。演奏を行なう上で最も貴重なヒントやアイデアが得られるのもこのステージです。
ブラームスの弦楽六重奏曲第2番ト長調Op.36 1楽章 (分析データ)
この作業に最低4−5時間はかかると思いますが音を出さずに音楽を考える非常に貴重な時間です。